オンラインで学習を評価するための10のポイント

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オンラインで学習を評価するための10のポイント

 教室での授業をオンライン化した科目において、学生の学習をどう評価するか悩んでいる教員の皆さんもいるでしょう。これまでと同じ方法では評価を行うことができない場合、代替の方法を検討する必要があります。それは大変な作業ですが、これまで試みられていなかった新たな評価方法を開発する機会になるかもしれません。

 このページでは、通信教育やeラーニング等のオンライン授業で活用されている評価方法を参考にして、オンラインで学習を評価するための10のポイントを紹介します。

 尚、シラバスで示していた内容を変更する場合は、学生が不利にならないよう十分留意すると同時に、学生にできるだけ早く、確実に周知してください。科目によっては部局のカリキュラム責任者に相談や報告が必要な場合もあるかもしれません。

 本ページ作成にあたっては、尾澤重知先生(早稲田大学)、榊原暢久先生(芝浦工業大学)に情報提供とご助言をいただきました。感謝申し上げます。

*急にオンラインで授業しなければならなくなった場合の評価方法の代替案についてのページは、以下の「オンライン授業で学習評価をするための方法」をご覧ください。 https://www.tlsc.osaka-u.ac.jp/project/onlinelecture/tips03.htm


オンラインで学習を評価する10のポイント
(簡略版PDF)

10 Tips for Assessing Learning Online
(PDF)

*テキストのみのPDF(日本語)をご入用の方はこちらからダウンロード下さい。

オンラインで学習を評価するための10のポイント

1. 教室での一斉試験をオンラインで再現することは難しい

 まずは、教員の監督下で、学生に何も参照させない、他の学生と一切相談させないという環境で行われる教室での一斉試験を、オンラインで再現することは難しいことを理解しましょう。学生たちは、教科書が手元にあり、PCを使ってインターネット検索ができ、スマートフォンを使って友人や先輩に相談して問題を解くことが可能な環境にいます。この状況を前提として、実施可能な評価方法を考えていきましょう。

2. 学問的誠実性について教える

 どのような評価方法を採用したとしても、カンニング・剽窃・盗用を完全に防ぐことはできません。試験をやめて、レポートに切り替えた場合、こうした問題が増える可能性があります。まずは課題提示時に、学問的に誠実であることの重要性、それを遵守しなかった場合に生じることを説明しましょう。
 その上で、レポート課題の形式や内容を工夫することで、剽窃や盗用を生じにくくすることが可能です(成瀬 2016)。例えば、何をどのように書くべきか(内容と形式)を明示すること、授業をしっかりと受けていないと書けない内容にするなどです。

3. 学習目標を確認する

 評価とは学生が学習目標に到達したかどうかを測定する行為です。オンライン上での評価を考える上では、そもそもどのような能力を測定しようとしていたのかを振り返ることが重要です。学習目標は、本来変更するべきものではありませんが、シラバス作成時と大きく環境が変化した場合、オンライン上で評価可能な能力に変更する必要があるかもしれません。
 例えば、実験ができない状況では、「安全に実験を行うことができる」という目標は、「安全に実験を行うためのポイントを説明できる」という目標に修正せざるを得ないかもしれません。あるいは「口頭でのプレゼンテーションを効果的に行うことができる」という目標は、「文書でのコミュニケーションを効果的に行うことができる」という目標に修正せざるを得ないかもしれません。

4. 形成的評価を積極的に取り入れる

 評価には一般に、総括的評価と形成的評価があります。総括的評価とは、教育活動の後で、学習成果を総合的・全体的に把握するために行う評価のことです。期末試験や期末レポートなどがこれに該当します。
 一方、形成的評価とは、教育活動の途中で、学生が学習目標を達成しつつあるかどうかを確認するために行われる評価のことです。小テストやミニレポートなどがこれに該当します。
 1回限りの期末試験をオンラインで実施することは、学生・教員の双方に負荷の高い作業を求めることになります。例えば、期末試験をやめて、毎回もしくは数回毎の授業後に、小テストやミニレポートを課し、その結果の集積を成績評価の材料とします。これにより学生の継続的な学びを促すことができます。

5. ICTツールを活用して評価する

 大阪大学CLEなどのICTツールを活用すれば、試験問題や課題の指示、答案用紙の回収、採点、フィードバックといった一連の評価にかかわる作業をすべてオンラインで行うことができます。
 紙を介した評価と比較して、特に採点や成果物のフィードバックが迅速かつ詳細に行えます。さらには、レポートの剽窃チェックが可能だったり、学生の学習履歴や成果物がデータとして残ったりします。オンラインでも口頭試問をしたり、学生にプレゼン内容を動画で提出させたりすることも可能です。 
 ICTツールを使いこなすためには一時的には大変ですが、慣れれば元に戻れないという教員も数多くいます。

6. 問題を工夫する

 教科書や授業で扱った多くの知識を暗記し、それを筆記で再現させる試験問題の代わりに、問題を厳選し、深い思考を求める問題にしてみましょう。以下のような工夫が考えられます。

● 学習した知識を踏まえて応用問題を解くような問題を課し、あわせてその解答手順や用いた法則・原理も記述させる。

● 学習した概念やキーワードの関係性についてコンセプトマップ(概念間の関係を線でつなぐなどして図示化させたもの)で図示化させ、説明を求める。

● 学習した知識を使って自ら問題を創り、自ら解答させる。

7. 解答時間を制限する

 制限時間を設定して試験問題を解答させることができます。決まった時間に一斉に問題を示し、メールやCLEで答案を提出してもらえば、各学生の提出日時が記録されます。CLEのテスト機能を使えば、解答時間のカウントも可能です。
 しかしながら、オンラインで解答時間を制限することについては、通信環境が不十分な学生が不利になる、カンニングを徹底して防止することはできないといった指摘もあります。システムの不具合によりうまく機能しない場合があることも想定されます。よって、実施する場合は、様々な環境にある学生が解答するのに十分な時間を設定しましょう。

8. 出題パターンを増やす

 学生によって異なる設問を課すことで、不正が起こりにくくなります。例えば、設問1題につき3パターンを用意し、学籍番号の末尾などで、どの設問を解くかを指定します。すべての設問ではなく一部の設問だけ出題パターンを増やしてもよいでしょう。
 学生同士が連絡を取り合って相談したとしても異なる問題が割り当てられている可能性があります。当然ながら、問題作成には手間がかかりますし、採点にも時間がかかります。ICTツールを使うことで、蓄積された問題をランダムに出題することもできます。

9. ピアレビューを導入する

 大人数の授業で毎回詳細なフィードバックをすることは大変です。この場合、学生同士のレビューを導入することができます。例えば、CLEの掲示板機能やDropboxなどのファイル共有サービスを使って、学生同士で課題を共有できる状況にし、相互にコメントをさせたり、採点させたりします。その上で教員に課題を提出させると、成果物の質が向上します。その際には、ルーブリックを準備しておくと評価の公平性も高まります。学生は客観的に自分の学習成果物を分析する視点を得ることもできます。

10. 各種リソースを活用することを推奨する

 これまで教室内では禁止されてきた、教科書、ノート、インターネットを参照したり、友人と相談したりして試験に取り組むことを、むしろ推奨することもできます。各種リソースを活用した結果として、深い学びが行われればよいと考えます。他の学生と相談した場合、あるいは相談を受けた場合は、「誰と」「いつ」「何を」相談したかを明記させるなど、その学習過程を報告させることで、学びの質を確認できますし、貢献度の高い学生を評価することもできます。
 また、グループで課題を提出してもらうこともできます。この場合、学生はオンライン上で他の学生と協働して作業をすることになります。これは、新たな時代に求められる能力でもあります。

参考資料

  • ● エリザベス F バークレイ・クレア ハウエル メジャー著、東京大学教養教育高度化機構アクティブラーニング部門・吉田塁監訳(2020)『学習評価ハンドブックーアクティブラーニングを促す50の技法』東京大学出版会
  • ● 中島英博(2018)『学習評価(シリーズ大学の教授法)』玉川大学出版部
  • ● 成瀬尚志(2016)『学生を思考にいざなうレポート課題』ひつじ書房
  • ● Duan vd Westhuizen (2016) Guidelines for Online Assessment for Educators, The Commonwealth of Learning
  • ● Kiruthika Ragupathi (2016) Designing Effective Online Assessments RESOURCE  GUIDE, National University of Singapore (NUS)