生成AI時代の授業設計
近年、大学生の間で生成AIの利用が急速に広がり、学習や生活のさまざまな場面で活用されるようになっています。こうした状況を踏まえると、教員自身が生成AIの利用に積極的か慎重かにかかわらず、学生が生成AIを利用することを前提とした授業設計が求められています。
特に、授業の教育目標を踏まえながら、生成AIの利用をどのように位置づけるのか、また、課題の内容や成績評価の方法をどのように見直していくのかを検討することが重要です。本ページでは、生成AIの普及を踏まえた授業設計の基本的な考え方と、授業改善のポイントを紹介します。
授業設計の基本
① 到達目標から授業を設計する
生成AIの教育利用には、すべての授業に共通する一律の「正解」があるわけではありません。専門分野や授業の目標・内容によって、利用の適否や適切な活用方法は異なります。また、教員の生成AIに対する考え方や習熟度にも違いがあり、技術の進展に伴って、性能や利用環境も変化しています。
その中で授業設計の核となるのは、授業を通じて学生が何を理解し、何ができるようになることを目指すのかという「到達目標」です。まずは到達目標を明確にし、その達成をどのように評価するか、達成に向けてどのような学習活動が必要かを検討します。
そのうえで、専門分野の特性や学生の利用状況も踏まえ、それぞれの教員が生成AIの利用の適否や方法を判断することが大切です。生成AIの利用自体を目的とせず、授業設計全体のなかで、到達目標の達成に必要かどうかを考えていきましょう。
② 学生の「学びのオーナーシップ」を確保する
社会では、成果の質や業務の効率が重視され、生成AIも「パフォーマンス・ツール(成果達成のための道具)」としてすでに積極的に活用されています。そのため、教育においても、生成AIの利用を考える際には、成果や効率性に目が向きがちです。
しかし、教育では、課題を完成させるだけでなく、その過程で学生が何を考え、どのような知識や能力を身につけるかという学習プロセスも重要です。生成AIに思考や判断を委ねすぎると、学生自身が試行錯誤し、理解を深める機会が失われる可能性があります。
そのため、生成AIを利用する場合にも、学生自身が学びの主体であり続けられるよう、「学びのオーナーシップ」を確保することが重要です。「学びのオーナーシップ」は、学習者が自分の学びを「自分のもの」として捉え、その過程や成果に当事者意識と責任を持つことを意味します。生成AI以後は、学生が与えられた知識や回答をそのまま受け取るのではなく、自ら問いを持ち、考え、判断しながら学びを進めていけるような授業設計が、より求められるでしょう(飯吉 2025)。
授業設計において検討すべき3つの問い
こうした背景を踏まえ、生成AI時代の授業を設計・改善する際には、教員自身が以下の3つの問いについて検討することが大切です。
- 何をAIに任せてもよいのか?
- 何を学生自身に考えさせたいのか?
- その境界を学生にどう伝え、どう授業設計や評価を行うのか?
生成AIを踏まえた授業改善では、単に「使わせるか/使わせないか」という二者択一にとどまらず、学習目標に照らして、「何のために、どの場面で、どこまで利用するのか」を具体的に検討することが重要です。「AIを使うかどうか」ではなく、「AIとともに、学生がどのように学ぶか」を意識しながら授業改善を進めていくことが、生成AI時代の授業改善の基本となります。
※ 学生に身につけてほしい学びとは
生成AIの教育利用を考える際には、SalomonとPerkins(2005)による「Effects with Tools(ツールを使って得られる成果)」と「Effects of Tools(学習者自身に残る学び)」という区別が参考となります。
この二つの効果の違いを詳しく見る (比較表) クリック/タップで開閉します
二つの効果は、どちらか一方を選ぶものではありません。授業の目標に照らして、生成AIに任せる過程と、学生自身が取り組む過程を検討し、成果物の質に加えて、学生自身に身についた知識や能力を確認することが大切です。
| 観点 |
Effects with Tools
ツールを使って得られる成果 |
Effects of Tools
学習者自身に残る学び |
|---|---|---|
| 意味 | ツールの助けを借りて、より良い成果を得たり、難しい課題を遂行したりできること | ツールを使った経験が、使わない場面でも発揮できる知識や能力につながること |
| 生成AIの位置づけ | パフォーマンス・ツール(成果達成のための道具) | プロセス・ツール(学習過程を支援する道具) |
| 活用例 | 文章の下書きや情報の整理を任せ、課題を効率よく進める | AIの回答と自分の考えを比較し、根拠や妥当性を検討する |
| 確認したいこと | 成果の向上が、学生自身の理解や能力の向上を伴っているか | AIとのやり取りを通じて、学生自身の理解や思考が深まったか |
授業のなかで生成AIを位置づける
以下では生成AIで授業を位置づける際に参考となるモデルや考え方について紹介いたします。
生成AIの位置づけと利用範囲
生成AIに対応した授業設計について、AI-Resistant/AI-Conductive/AI-Expansiveという三つの類型に沿って、具体例を以下に示します。
❶ AI-Resistant (AIを使わせない)
AIがあまり役に立たない、またはAIの出力をそのまま利用しにくいような設計
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- 最新または固有のテーマを設定する
- ごく最近の出来事やローカルな内容、学生の個人的経験をテーマに
- 実世界の経験や観察を組み込む
- フィールドワーク、実験、サービスなど直接的な体験や観察を課題に
- 文字以外の成果物を重視する
- プレゼン、口頭試験、動画、Podcast、ポスター、コンセプトマップ等
- 批判的思考と応用を求める課題を出す
- 資料の解釈、複数の情報源の統合等、高次の思考スキルを必要とする課題
- 授業内での議論を反映させる
- 授業内の議論の特定の視点を含めるような課題
- 短い課題を繰り返し出す
- 小規模な課題を頻繁に出す
❷ AI-Conductive (AIの利用を認める)
AIが学びに役立つ可能性を認め、AIの支援を受けながら課題に取り組むことを前提とした設計
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- ブレーンストーミングツールとして利用
- 初期段階でのアイデア出しや構成を検討するために利用する
- プロセスの可視化を求める
- 最終成果物だけでなく、それを作成したプロセスも評価する
- AIからのフィードバックを活用する
- 自分で作成した成果物に対するフィードバックをAIに求めて改善する
- 引用や情報源の明示を求める
- AIが生成したものもその情報源を明記し、引用ルールを徹底する
❸ AI-Expansive (AIを積極活用する)
AIなしでは実現できないようなAIの活用を前提とした設計
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- AIを活用した高度なプロジェクトをする
- 大規模なデータ分析、シミュレーション、プログラミングなどの高度な課題に挑戦させる
- AIで生成したコンテンツを批判的に評価する
- AIの生成物の強み、弱み、正確性、バイアス、倫理面を詳細に分析・評価する、意図的にAIを騙す・誤った情報を生成させる、矛盾を引き出す課題を出す
- AIとインタラクティブに対話する
- ロールプレイング、対話のシミュレーションを元に、対話の質や洞察や学びを評価する
- 画像生成AIを活用する
- プロジェクトの視覚化やポスターの作成を課題とする
- プロンプトエンジニアリングを学習する
- プロンプトコンテストを開催する
AIアセスメントスケール
さらに細分化した指標として「AIアセスメントスケール」を紹介します。「AIアセスメントスケール」は、教育評価におけるAI活用の適切なレベルを判断するために、Perkins氏が開発した5段階の指標です。このスケールの狙いは、学生の批判的思考力や問題解決能力を重視しつつ、AIを活用して作業の効率化や創造性の向上を図ることにあります。タスクの各要素ごとにスケールを適用することで、従来の評価方法とAIとをバランス良く組み合わせることができます。
学生の状況に応じた生成AIの使い方
以下の図は、授業で生成AIをどこまで使い、教員がどのように支援するかを考えるためのモデルです。「課題の内容」と「学生の学習への準備状態(レディネス)」を組み合わせ、生成AIの使い方を四つに整理しています。学生を固定的に分類するのではなく、課題や学習状況に応じて、AIに任せる範囲と必要な支援を調整するための手がかりとして活用できます。
※理論的に提案されたモデルであり、各方針の効果については今後の検証が必要です。
学生と共有すること
まだ十分に専門的な教育を受けていない学生が、学習における生成AIの適切な利用方法を自身で判断することには限界があります。そのため、生成AIを学習にどのように活用してよいのか不安を感じている学生は少なくありません。そのため、教員が生成AIの利用方針を明確に示し、学生と共有することが重要です。
尺度を用いた利用方針の提示
利用方針を提示する際には、授業全体で一律の方針を示すだけでなく、個々の学習活動や課題の目的に応じて、生成AIの利用範囲を具体的に設定することが大切です。前述の「AIアセスメントスケール」などの尺度を参考にしながら、それぞれの学習目標に応じた利用レベルを検討するとよいでしょう。
以下では、授業全体および個々の課題における生成AIの利用方針の提示例を紹介します。これらの具体例を参考にしながら、学生に身につけてほしい知識や能力を改めて確認し、課題の内容と生成AIの利用方針を見直してみましょう。
授業全体における提示例 クリック/タップで開閉します
授業全体:レベル3
本授業では、生成AIをはじめとする新しいテクノロジーを活用した研究方法について学びます。授業全体ではレベル3を基本としますが、学習活動や課題に応じて利用可能な範囲が異なります。
授業前の課題:レベル1〜2
まずは自分の力で課題に取り組んでください。生成AIの利用が認められている課題(レベル2)では、どうしてもわからない場合に生成AIを利用しても構いません。ただし、レベル1の課題では利用できません。
授業中の活動:レベル2〜3
ディスカッションやグループワークで行き詰まった場合や、わからないことがある場合には、生成AIを活用しても構いません。ただし、生成AIの回答をそのまま採用するのではなく、発表や報告の内容は自分たちで考え、判断してください。
授業後の課題(レポート・プレゼンテーション資料など):レベル3〜4
課題の作成にあたっては、生成AIからのフィードバックや提案を参考にしても構いません。ただし、提案された内容を十分に吟味し、最終的には自分自身の考えを示してください。なお、課題によってはレベル1(生成AIの利用禁止)を指定する場合もあります。必ず個々の課題に示された利用方針を確認してください。
生成AIの使用に際して学生に伝えること
生成AIの適切な使用について学生に早めに伝えることで、トラブルを未然に防ぐことが期待できます。以下に事前に学生に伝えておくことについて挙げます(浦田 2023)。
- 生成AIを適切に使用しない場合は、学業上の不正行為とみなされること
- 生成AIの使用は、あくまでも学習サポートに限ること
- 意図しない盗用、著作権侵害、個人情報・機密情報の漏洩の可能性といった法的リスクがあること
- 「ハルシネーション」や参考文献は実在しないものが多いといった出力の信頼性の問題があること
- 詐欺への注意として、安易にインストールしたり課金したりしないこと
- 生成AIの不正な使用は、誠実、信頼、公正、尊敬、責任、勇気(ICAI, 2023)といったアカデミック・インテグリティの原則に違反しうること
- 情報の分析などで生成AIを使用した場合は、その旨を明記すること
外部資料を用いた情報共有
生成AIの利用方針や注意点を伝えるだけでなく、学生自身が生成AIの適切な使い方について考える機会を設けることも重要です。その際には、外部で公開されている教材を活用することも一つの方法です。
『生成AIと共創する学習ワークブック』
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本教材は、主に大学1年生を対象に、生成AIとの向き合い方を学術的誠実性(アカデミック・インテグリティ)の観点から考えるためのワークブックです。学生が実際に書き込みながら、自分自身の考えを深められる構成となっており、初年次教育や情報リテラシー科目などで活用できます。
クリエイティブ・コモンズライセンス(CC BY-NC 4.0)で無償公開されており、ライセンスの条件に従って授業で活用できます。
- 編著:岩﨑千晶・福山佑樹・松河秀哉
- 出版:三恵社