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「秋学期以降の15のシナリオ」を翻訳・掲載しました

2020.07.13
更新情報
2020年度秋学期以降に、どのように授業を提供すべきかについて、世界中の高等教育機関の関係者が頭を悩ませています。このページでは、この問題の解決のための参考資料として、オハイオ州立大学のエドワード・J・マロニー教授とダートマス大学のヨシュア・キム教授が書いた「秋学期以降の15のシナリオ-ソーシャル・ディスタンス時代における高等教育-」をご紹介します(著者からの許諾の上で、翻訳・公開しています)。

秋学期以降の15のシナリオ
-ソーシャル・ディスタンス時代における高等教育-

エドワード J. マロニー&ヨシュア キム
2020年4月22日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行によって、高等教育がこれまで以上に深刻な課題に直面していることは想像に難くありません。今後数年間は、今直面している課題の影響を受けることになるでしょうが、2020年の秋学期は、高等教育に関係するこれまでの多くの基準や構成が見直されることになるでしょう。

今年の秋学期に何が起こるかは誰にも予測できませんが、ほとんどの大学では、様々な選択肢を検討しています。これらの選択肢は、すべてをこれまで通りに戻すという極と、完全に遠隔学習にするという極を両端にして、連続的に存在している傾向があります。前者の、これまで通りに戻すという選択肢は、ほとんどの大学ではそれを取るかどうかを自ら決めることができないでしょう。後者の遠隔学習へ移行する選択肢は、少なくとも現段階においては、多くの大学が取りたくない選択肢でしょう。その両端の間で、選択肢は複雑化しています。

ここでは、各大学が検討している秋学期以降の15のシナリオを紹介します。

1. 通常への回帰モデル(Back to Normal

このシナリオは、次の秋学期をこれまでと同じようにすることです。通常どおり学生はキャンパスに戻ります。つまり、通学生はキャンパスで授業を受けます。あらゆる正課活動、あるいは準正課活動*は、いつものように実施されます。キャンパスライフは通常状態に戻りますが、おそらく(期待を込めて言いますが)、この春学期の大変動から、教育や学習活動の支援に投資することの重要性について関係者が教訓を学んだという点がこれまでと違う点でしょう。

*準正課活動…正課、正課外活動の間に位置づくものであり、単位は付与されないが、大学として受講を強く推奨している活動のこと。例えば、インターンシップや留学など。

2. 授業開始延期モデル(A Late Start

次の秋学期の可能性の一つは、大学が学期開始を例年よりも遅くすることです。おそらくソーシャル・ディスタンスの制約に従い、学生がキャンパス内での授業に参加できるのは、10月か11月初旬になるでしょう。オンライン授業から始めて、少し後で対面式の授業を実施するという選択肢もあるでしょう。もしくは、ワクチンやよりよい検査方法が見つかるなど、新型コロナウイルスの感染拡大に対する戦いにおいて明らかな転機がやって来るまで、学期の開始を延期する選択肢もあるでしょう。

3. 来年度春学期移行モデル(Moving Fall to Spring

シナリオ2は、秋学期の開始時期を遅らせるものでしたが、あくまでも通常の秋学期内に実施することを想定しています。このシナリオでは、秋学期を2021年1月まで延期します(訳者注:アメリカでは通常12月までが秋学期)。そこから、春学期を夏学期へと繰り下げるのか、もしくは年間の授業日程を変更することによって、春学期とかなり短い夏学期にするのかを選択します。これは思い切った一歩ですが、一部の大学では秋学期の実施計画として前向きに検討しています。

4. 1年生限定モデル(First-Year Intensive)

学生が大学での経験をどのように始めるのかは、どのように大学での経験を終えるのかに最も影響を与えます。学生が厳しい大学生活を頑張りぬくことができるかどうかは、大学レベルの学習の中身の濃さや求められる自主性に慣れるために受けるサポートの質によります。このプランでは、1年生、特に大学へと移行する最初の数週間や数ケ月の重要性を踏まえて、秋学期には1年生のみキャンパスに来てもらいます。1年生は、通常の授業を受け、キャンパスで開催されるオリエンテーションや、人間関係を構築する演習などのあらゆる活動にも参加します。2、3、4年生は、秋学期はリモートで学習を継続します。

5. 大学院生限定モデル(Graduate Students Only)

1年生に限定するモデルと同様に、このアプローチではキャンパスに戻る学生層を特定します。このモデルでは、学部生に比べると人数の少ない大学院生がキャンパスに戻り、研究を続けたり、研究を継続する支援をしたりします。学生層を特定する方法としては、学部や専攻別、クラス別などがありますが、それらはクラスサイズや対面でのやり取りの必要性など、カリキュラムや運営面で考慮すべき事項とも組み合わせて検討することになるでしょう。

6. 大規模ギャップイヤーモデル(Structured Gap Year)

多くの大学では、海外留学やギャップイヤー*という選択肢が設けられています。秋学期に留学するのはまだ難しいかもしれませんが、秋学期に向けて低密度の大学モデルをつくる取り組みの一つとして、通常より規模を拡大してギャップイヤーを展開するアプローチが考えられます。ソーシャル・ディスタンスを守りながら実行・管理できるようなプロジェクトベースの経験を、学生が提案するでしょう。このモデルは、ソーシャル・ディスタンスの制限の中で、ギャップイヤーを有意義な経験にする選択肢があるかどうかに大きく依存します。

*ギャップイヤー…大学への入学資格を保持したまま、留学、アルバイト、インターンシップ、ボランティア活動など多様な経験をするために、一定の期間、入学を遅らせられる制度のこと。

7. 絞られたカリキュラムモデル(Targeted Curriculum)

秋学期の選択肢の一つは、提供される授業の数を減らして、キャンパス内の密度を一定に制限し、学生支援のためのリソースに優先順位をつけることです。各大学はこれを実行するために様々な方法を考えています。例えば、コアとなる授業や特徴的な経験を伴う授業に絞る、登録者数の少ない授業を休講とする、マルチプル・モダリティ*を取り入れやすい授業を優先する、などです。対象にならない授業はオンラインで教えることになります。

*マルチプル・モダリティ…学生の学習への関与を高めるために、多様な学習スタイルに対応した授業を行うこと。例えば、一つの授業において、映像、音楽、文章、図・絵、体験、協働作業などを使って教えることが挙げられる。

8. 分割カリキュラムモデル(Split Curriculum

カリキュラムを分割するシナリオでは、個々の授業は、対面、もしくはオンラインのどちらかで設計されます。キャンパスに戻ることができる学生(ソーシャル・ディスタンスの規定が適用される人数内)はどちらの方法で学ぶかを選ぶことができます。学生にオンラインの授業を一定の割合で取るように求めれば、キャンパスに戻る学生数を増やすことができるかもしれません。このシナリオの利点は、教員にとっては授業づくりのプロセスが簡素化され、学生にとっては授業選択のプロセスが簡素化される、という点です。同時に、ソーシャル・ディスタンスのガイドラインを守りながら、対面授業を可能な限り多く運営することができます。

9. ブロック・プラン(A Block Plan

このシナリオは、いくつかの大学がすでに行っていることを模倣するものです。学生は一度に一つの授業を、相当に短い期間(3週間か4週間)のセッションまたはブロック単位で、全学期間中連続して受講します。利点は、興味深い集中的な教育方法であることに加えて、柔軟であることです。新型コロナウイルスの世界的大流行に関連して、第二波の感染といった何らかの変化が起こったとしても、大学はブロック間の休み期間中に、遠隔にするか対面にするかの方向転換をしやすくなります。

10. モジュール制(Modularity)

ブロック・プランは、ほとんどの大学における標準的なカリキュラム構造から大きく逸脱しています。そのため、カリキュラムや教育実践、運営のプロセスを全般的に見直すことが求められるでしょう。モジュール制*を採用した授業モデルに移行することは、より魅力的で、既存の構造の中で簡単に実施できるでしょう。大学の使命や特徴的な強みに合致する多様な方法で授業を構成できます。ある大学では、学生は7週間半かけて5科目からなるモジュールを受講し、その後、別の5科目からなるモジュールに移行していきます。あるいは、選択科目や実験実習科目の短期モジュールと学期期間中を通して開講される少人数ゼミを一緒に受講することも可能です。 

*モジュール制…関連する複数の科目のまとまり毎に学ぶ方法。

11. キャンパス滞在+バーチャル学習モデル(Students in Residence, Learning Virtually)

KGI(訳者注:Keck Graduate Institute:ケック大学院研究所の略)のミネルバ大学(Minerva Schools)*のように、このアプローチでは、今学期同様、授業をバーチャル空間で行いながら、やや低密度の状態で学生をキャンパスへ戻します。学生は、効果的なソーシャル・ディスタンスを保つよう計画されたものであれば、多くの準正課活動に参加することができます。しかし、正課の授業に関して言えば、教室で長時間滞在する場合の適切な学生密度がわからない授業はオンラインで行われます。

* KGIのミネルバ大学…2014年に開校したアメリカの私立大学。特定のキャンパスを有しておらず、学生は4年間で世界7都市をめぐりながら各都市で寮生活を行い、すべての授業をオンラインで受講する。

12. 低滞在時間モデル(A Low-Residency Model)

このモデルは、これまで多くのオンライン・プログラムや、社会人(企業役員)向けのプログラムがうまく運用している方法と同じく、学生はキャンパスに来て集中的に対面による経験学習を行い、その後自宅に戻って、オンラインで学期の授業を履修することになります。学生は繰り返しキャンパスに来ます。これにより、学生密度を管理しやすくなります。ソーシャル・ディスタンスを保ちながらも、仲間の学生や教員との対面による豊かな教育経験を積むことができます。学期のオンライン授業の部分は、学生が対面時にお互いのことをよく知ることでその質を高められるでしょう。

13. ハイフレックス・モデル(A HyFlex Model

ハイフレックス・モデルは、おそらく最も柔軟性があり、多くの人にとって最も魅力的なものになるでしょう。もしかすると、教員にとっては、より難しいアプローチの一つにもなりえます。このモデルでは、同じ教員が、同時に、対面とオンラインの両方で授業を行います。学生はキャンパスに戻るか、自宅にいるかのどちらかを選択することができます。キャンパスにいる学生は、対面授業を選択した場合、特定の授業時間枠が割り当てられます。これにより、大学は教室内でのソーシャル・ディスタンスをより細かく管理できるようになります。このモデルは同期型学習を重視する傾向があり、それをうまく行うためには、授業内のリアルタイムの手助け(例えば、TAやオンライン上の学生を管理するための授業アシスタント)や、意図的にデザインされた教室環境、そして学生と教員両方から多大な忍耐が必要です。

14. 修正版チュートリアル・モデル(A Modified Tutorial Model

学生と大学に多くの柔軟性を与えるもう一つのアプローチが、修正版チュートリアル*・モデルです。このモデルでは、学生は共通のオンライン授業を受講します。その後、教員やTAがチュートリアルの時間に、ソーシャル・ディスタンスを確保して、少人数の学生グループと面談します。ハイフレックス・モデルとは異なり、修正版チュートリアル・モデルでは、ICTを扱うための追加の授業内サポートを必要としません。欠点は、学生との面談のために教員の時間が必要になることです。

*チュートリアル…大学教員による講義とは別に行われる、少人数もしくは個別形式の指導の時間。

15. 完全な遠隔教育モデル(Fully Remote

秋学期に向けて最も明白な選択肢は、この春学期に行ってきたことを継続することでしょう。学生はどこにいてもバーチャルな環境で教育を受けることができます。この春学期の成功は秋学期にも引き継がれ、得られた教訓を生かすことができます。準正課活動の実施は難しいかもしれませんが、学生団体や多くの活動は、一時的であったとしても、オンライン上で実施可能でしょう。


これらのモデルはまったく別のものというわけではなく、多くは重複しています。それぞれのモデルは、当該キャンパスに特有の、微妙な違い、修正、創造的な解決策を与える機会をもたらしてくれます。そして、多くの場合、同期型学習と非同期型学習を、柔軟かつダイナミックな方法で組み合わせることができる、相当に高い適応力のある教員が求められています。

どの大学においても、これらすべての選択肢が完全に実現可能というわけではありません。しかしながら、大学が次年度にやって来る未知なるものに対応するために必要な思考実験でしょう。

ただし、これらのモデルで明らかなことは、これら15のシナリオすべてにおいて、教育と学習、学習面でのアドバイジング、学生(教員や職員は言うまでもなく)の健康や安心、調整や裏方作業に対する支援は強化される必要があるということです。秋学期にこれらのシナリオのいずれかを(もしくはその組み合わせを)採用するのであっても、私たちは互恵的に支え合う学習コミュニティをどのように構築するかを再考することが求められます。これはどれも簡単なことではありません。

これから数週間をかけて、私たちはこれらのシナリオをできる限り掘り下げていきます。私たちの目標は、これらのアイデアをまとめ、The Low-Density University(低密度の大学)(仮題)というタイトルの、簡約版デジタルブックの中で、いくつか提言をすることです。私たちが見落としていたシナリオや、上記のシナリオについてあなたの大学がどのように考えているかについてのフィードバックをぜひお聞かせください。

原著「インサイド・ハイヤーエデュ」のリンク
Edward Maloney and Joshua Kim (2020) "15 Fall Scenarios", Inside Higher Edhttps://www.insidehighered.com/digital-learning/blogs/learning-innovation/15-fall-scenarios
原著者紹介
エドワード J. マロニー(オハイオ州立大学 学習・学識ニューデザインセンター長/ejm@georgetown.edu) 
ヨシュア キム(ダートマス大学 応用学習センターオンラインプログラム・戦略部門長/joshua.m.kim@dartmouth.edu)
著書紹介
Kim, J., & Maloney, E. (2020). Learning Innovation and the Future of Higher Education. Johns Hopkins University Press
訳者紹介
監訳

佐藤浩章(大阪大学 全学教育推進機構教育学習支援部 准教授)
杉森公一(金沢大学 国際基幹教育院高等教育開発・支援部門 准教授)
※本記事は杉森先生に紹介いただきました。感謝申し上げます。
翻訳
根岸千悠(大阪大学 全学教育推進機構教育学習支援部 特任助教)
田尾俊輔(大阪大学大学院言語文化研究科言語文化専攻博士後期課程 大学院生)